e-Consentとは

e-Consentとは

e-Consentとは、臨床研究において、研究参加者(研究協力者・被験者)にスマートフォンやタブレット・PCを用いて説明を行い、電子的に同意を得て研究へ参加してもらうという、説明の実施と同意取得のプロセス全体を指します。

DCT(Decentralized Clinical Trial:分散型臨床試験 )に大きな関心が集まる今日、「e-Consent」と表現した場合には、説明文書、説明動画・問い合わせ窓口設置、など、紙・対面・同期的に行っていた手続きを、電子的に遠隔地からでも非同期的にも実施できることが暗黙の前提として想定されています。

e-Consentが注目されている背景

e-Consentシステムを導入することで、臨床研究や調査研究における様々な課題を解消できるのではないか、という期待が高まっています。

  • ● 新型コロナが蔓延したことで従来通りの説明と同意取得が困難になった
  • ● 個人情報の取り扱いや文書保管に困難がある
  • ● 来院負担が大きく、目標数まで研究参加者を集めることに苦労している
  • ● EDCやePROの普及・導入が進むなか、データ連係を行って入力作業を軽減したい

2021年4月に公表された「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する 倫理指針 ガイダンス」には、電磁的方法によるインフォームド・コンセントについて明記されました。2023年3月には「治験及び製造販売後臨床試験における電磁的方法を用いた説明及び 同意に関する留意点について」が公開され、e-Consentシステムの導入検討をする気運がますます高まっています。

e-Consentの意義・メリット

研究参加の候補者が増える

e-Consentシステムを導入する事で、施設に通うことが研究参加のネックになっていた方でも、ご自宅でリラックスしながら説明を受ける事が可能になります。物理的・時間的・費用的な障壁が小さくなる事で、参加可能になる方が増えるため、対象者募集にメリットがあると考えられます。

DCT(Decentralized Clinical Trial)の実現

施設への来院が前提だった臨床研究が、来院なしで実施する事が可能になってきています。治験や臨床研究を効率的に実施することで、創薬や臨床研究を加速する事が期待されており、その観点から、DCTに非常に注目が集まっています。

DCTを実現するためには、リモート診察やリモートでのデータ収集、ヘルプデスク開設、試験薬の配送なども検討する事になりますが、e-Consentの導入は前提条件になることが多いと考えられます。そのため、研究計画立案時点からe-Consentシステム導入検討が必要となります。

研究計画の精緻化

e-Consentの導入が、研究計画を洗練させます。

例えば動画を用いて説明する場合、事前にどのようなコンテンツをどのような順番で配置するか、1回の説明では不十分な場合にどのようにフォローするか、問い合わせ窓口をどうするか、説明と同意を取り巻く全てのプロセスを決めておく必要があります。

本人確認について、身元確認や本人認証についての具体的に検討する必要性が生じます。侵襲性の大きさとそのリスクについて検討した上で、例えば自己申告で足りるのか、診察券や免許証、あるいはマイナンバーカードなどの資料も必要なのか、などを決定します。

そういった検討を余儀なくされる結果、事前に緻密にデザインされた研究へとつながります。

スタッフの負担軽減

研究開始前の検討と準備は、増えるかもしれません。その分、研究実施期間中に少し余裕が出来ます。

動画やよくある質問を準備しておけるため、説明の時間の大幅な効率化が期待できます。施設で待機しなくても、スタッフはリモートで対応可能です。短期間に多くの研究参加者の対応を行う事も、実現可能になります。

e-Consentを導入するには

必要な要件を満たすe-Consentシステムの選定

e-Consentシステムには、倫理指針に記載されている下記の機能が備えられていることが期待されます。

  • ● 本人確認の仕組み
  • ● 動画や音声などのリッチコンテンツによる説明
  • ● 説明を受けたこと、説明を理解したことを確認する画面
  • ● 選択基準・除外基準に答え、適切な対象者である事を確認してから進む画面
  • ● 研究協力者ならびに研究事務局が、任意のタイミングで同意書を確認できる仕組み
  • ● 同意をした本人(代諾者)が、同意文書を閲覧・保管できる仕組み
  • ● 同意を得た研究協力者を、研究事務局や研究データ管理システム(EDC)と共有する仕組み
  • ● ER/ES指針への準拠

ただし、試験内容に応じて必要な機能・要件を見極める必要があります。

対象者の特性、研究の複雑さ、介入の侵襲性に応じ、電話や動画での対応、場合によっては対面での説明や質問対応を用意するなど、検討が必要になると考えています。

倫理審査への対応

e-Consentの利用を倫理審査でも認められる必要があります。ER/ES指針や各ガイドラインに準拠しているかという観点と、その研究においてe-Consentシステムを用いる妥当性、患者の権利を守れるか、などが包括的に問われます。

e-Consentの場合、紙を用いる場合に比べ、説明事項が多くなる傾向があります。紙であれば不要であった「画面の遷移」「デジタル技術に不慣れな方への配慮」などが求められる場合があります。

PRO(患者報告アウトカム)の電子化(ePRO)でも経験したところですが、紙から電子への移行初期には、紙の場合であれば指摘されなかった事についても、丁寧に説明することが求められます。

今後、電子化・合理化が進むのは必然の流れですので、現時点からe-Consentシステムの導入を進める経験を積むことで、大きなアドバンテージになると期待できます。

ePRO/EDCシステムとの連携

e-Consentシステムが守備範囲とするのは「説明と同意」の部分であり、その後、臨床試験上必要なデータを取得していくことになります。同意を得られているかどうかは、適切に臨床研究を進める上できわめて重要な事項ですので、EDCやePROと適切に、できればリアルタイムで、連携することが必要になります。

そのため、e-Consentシステムの選定においては、EDCシステム、ePROシステムとの連携の実現も、重要なポイントです。

スタッフの研修と対応

研究参加者が皆デジタル技術に慣れているわけではないのと同様に、対応するスタッフも全員がデジタル技術に熟達しているわけではありません。経験したことのないトラブルや問合せが発生した場合に備え、スタッフの研修やサポート体制を整え、事前に対応の練習をすることで、スムーズな運用をはじめることが可能になります。

e-Consentシステムの導入事例

アクセライトでは、e-Consentの要件が倫理指針に記載される前からe-Consentシステムを開発しております。その製品は、実際の臨床研究において用いられ、研究成果は既に国際誌に掲載されております。

Akechi, T., Yamaguchi, T., Uchida, M., Imai, F., Momino, K., Katsuki, F., ... & Iwata, H. (2023).

Smartphone psychotherapy reduces fear of cancer recurrence among breast cancer survivors: a fully decentralized randomized controlled clinical trial (J-SUPPORT 1703 study).

Journal of Clinical Oncology, 41(5), 1069-1078.

どのようなe-Consentシステムであれば研究目的に沿い、かつ、研究協力者や研究事務局の負担を低減できるか、質の高い研究を実施できるか、という観点から開発を行っており、研究を取り巻く事情を丁寧にヒアリングした上で、研究に関わる一当事者としてe-Consentシステム導入のご提案に力を入れています。

ややもすれば、「必要な要件」が多くなり、「必要な連携」も多くなりがちではありますが、ガイドライン等に沿った上で、研究目的に沿った必要十分な機能提供を心がけています。

e-Consentシステムを導入提案しない事例

e-Consentシステムは強力な道具ですが、あくまでも道具であるため、導入にあたっては研究目的に立ち返っての検討が必要と考えております。そのため場合によっては、e-Consentシステムを導入しない方がよいかもしれません、と助言することもあります。

当該研究で個人名を取得するような同意が必要になるのかは、研究デザイン、介入の侵襲性の程度、などにより、倫理的な観点から個別に検討するべき事になります。e-Consentシステムは本人氏名を含む個人情報の取得を前提に設計されておりますので、その導入費用もさることながら、試験期間中の保守運用費用も必要となります。

一方で、介入のない観察研究や、介入はあるが1施設内での臨床試験、対象者数が数例であるなど、e-Consentシステムを導入しても期待した効果があまり得られない、場合によっては、事前準備の大変さでコスト自体が見合わなくなってしまう場合もあります。

このように、e-Consentシステムの導入にあたっては、e-Consentシステムの導入自体が目的にならないよう、個別の事情をしっかりと見極めることも重要であると考えています。

臨床研究の成功のために

厚生労働省の「治験及び製造販売後臨床試験における電磁的方法を用いた説明及び同意に関する留意点」に関する文書が発出されたことで、e-Consent導入のための要件がとても明確になってきました。

ご相談を頂く先生方とお話をさせて頂くと、治験や製造販売後臨床試験ではない研究で「これらの要件を全て満たさなければe-Consentシステムの導入が出来ない」と思われる事があるように感じています。また、施設において電子ファイルを原資料として扱うための規定が十分整備されていないという事情もあり、とりわけ多施設共同研究においてはハードルになる場合もあるようです。

e-Consentシステムの導入は、それ自体がゴールではなく、臨床研究を成功させるための手段です。導入のインパクトは大きいため、「e-Consentシステムの導入がこの臨床研究の質を向上させるのではないか」と視点での導入検討をおすすめします。